大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(ラ)102号 決定

1 記録によれば、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、もと弓野芳朗、弓野まり子の共有であったところ、これにつき、昭和五九年五月一一日、弓野芳朗の日本ハンジングローン株式会社に対する借受金債務三〇〇〇万円の担保のため抵当権が設定され、同月一四日その旨の登記がなされ、次いで、同月二五日付譲渡担保を原因として、同月二七日、右弓野芳朗、弓野まり子から株式会社クリスタルに所有権移転登記が経由されたこと、三武産業株式会社(以下「三武産業」という。)は、昭和六〇年六月二〇日、株式会社クリスタルから、賃料一か月二万円、敷金一〇〇〇万円、期間三年、期間中の賃料支払済み、譲渡転貸ができる旨の約定により、本件建物につき賃借権の設定を受け、同月二七日その旨の登記を経由したが、自ら占有使用はしなかったこと、抗告人の代表者の一人笠原征夫(同人と横倉守との共同代表の定めがある。)は、昭和六〇年八月一日、三武産業との間で、本件建物を賃料一か月一五万円、敷金一五万円の約で賃借(転借)する旨の契約を締結し、同年八月六日以降、本件建物は、笠原征夫及び抗告人の従業員一名の住居並びに抗告人の商品の倉庫として使用され、全体として抗告人の占有下にあること、弓野芳朗は、日本ハウジングローン株式会社に対する債務につき、昭和六〇年六月七日支払期の割賦金の支払を遅滞し、以降の割賦金も支払わなかったため、同年一〇月七日の経過により、分割弁済の期限の利益を失い、同会社の申立により、本件建物並びにその敷地及び隣接私道の持分につき、同年一二月一三日東京地方裁判所の競売開始決定がなされ、同月一八日その旨の差押登記が経由され、右競売手続において、同裁判所は、評価人の評価に基づき、右土地建物の最低売却価額を合計二二六八万円と定め、相手方が、昭和六一年一〇月二七日、本件建物及び右敷地等を一括して代金五五〇一万二〇〇〇円で買受ける旨の売却許可決定を受け、同年一二月一七日その代金を納付して所有権を取得したこと、本件建物は、昭和五九年四月頃建築された連棟式の木造・鉄筋コンクリート造スレート葺三階建床面積合計八二・三八平方メートルの居宅・車庫であり、東急世田谷線上町駅の西方約六〇〇メートルに位置し、周辺地域は中小規模一般住宅・共同住宅の混在する一般住宅地域(第一種住居専用地域に指定)であり、街路条件も比較的良好なものであることが認められる。

2 民事執行法一八八条が準用する同法八三条一項本文によれば、執行裁判所は、事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。

前記事実によると、抗告人を共同して代表すべき者の一人である笠原征夫が三武産業との間に締結した転貸借契約の効力が当然に抗告人に及ぶものとはいえないが、抗告人の本件建物の占有は、笠原征夫の転借権に依拠するものと推測することができ、そして、右転借権の原賃借権たる三武産業の賃借権は競売開始決定による差押えの登記前に成立したものである。

しかしながら、本件建物の所有権移転の経緯、三武産業が賃借権の設定を受けた後、本件建物を自ら占有使用したことはないこと、右賃借権の内容は、本件建物の広さ、環境、売却価額等に照らして、賃料が著しく低額であるのに、著しく高額の敷金が差し入れられているばかりか、賃料が期間中全額前払いしたものとされ、かつ譲渡転貸ができるというものであることなどを考慮すると、株式会社クリスタルと三武産業との間の本件建物賃貸借契約は、正常な建物賃貸借契約とは到底認め難いものであり、賃借権設定者又は賃借権者が抵当権者の損失において不当に自己の利益を図る目的に出て、民法三九五条の短期賃貸借を保護する制度の趣旨を逸脱し、これを濫用したものと認められ、保護に値しないものというべきである。したがって、原賃借権者たる三武産業が、買受人に対して賃借権を主張することはもちろん、右三武産業から転借した笠原征夫及び同人の転借権に依拠して本件建物を占有する抗告人においても右原賃借権を主張することは許されないというべきである。

そうすると、抗告人は、本件建物の差押えの効力発生前から占有している者であるとしても、法律上保護するに値する権原を有するものではないものと解されるから、権原によらないで本件建物を占有している者に当たり、これを執行裁判所が本件建物の引渡を命ずる相手方とすることができるものと解すべきである。

(野田 川波 米里)

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